転倒転落の個別要因分析
~特性要因図の作り方~

現在の取り組みは、転倒転落発生率を減らすための漠然とした対策になっていませんか。
そんなときは発想を変えて、特性要因図を用いて個別ケースの原因を特定し、
具体的な対策をたててみましょう。

  • 特性要因図とは?

    個別ケースの要因分析に適したツールの一つとして、特性要因図をご紹介します。

    個別案件の要因をひとつひとつ見つけ出すうえで効果的なツールが、QC7つ道具の一つ「特性要因図(魚の骨)」です。特性と要因の関係を見える化できる特性要因図は、患者を中心に据えて考えるP-mSHELL分析に比べ、転倒転落の分析に適しています。対策を具体的に考えるひとつ前のステップとして、要因を整理するうえでとても有効です。
    ※QC7つ道具:データを定量的に分析し、品質管理(Quality Control)を行うための手法

    メリット

    階層化することで根本的な要因がみえる
    ・主要因と枝葉の要因を区別して整理しなおすことで、要因を階層化できる。
    ・「なぜなぜ分析」を繰り返すことで本質的な問題が見えてくる。

    考えが見える化され、組織としての意識や知識が高まる
    ・図中に問題点を記入できるため、常に問題を意識して討議できる。

    皆で洗い出しができる
    ・ホワイトボードや模造紙、付箋などを用いグループでディスカッションできる。

    特 性
    好ましくない結果や
    解決すべき問題
    要 因
    特性に影響を与えているものや
    特性を引き起こしている原因
  • 作ってみよう。特性要因図

    初めに「土鍋でご飯を炊いてみたら美味しくなかった」を例題に、実際に特性要因図を作ってみます。
    ご自身でも実際に試してみると、コツがつかみやすくなるのでおすすめです。

    特性要因図の作り方
    (特性:土鍋で炊いたご飯が美味しくない)

    例えば、特性を「土鍋でご飯を炊いてみたら美味しくなかった」とします。米が悪いのか、研ぎ方や火加減が悪いのか、水の量が悪いのか、はたまた土鍋が悪いのか。いろいろな原因を考えるときに、カテゴリーに分け要因を階層化することで、混乱を減らし、整理しながら問題を解決することができます。

    STEP1
    要因の洗い出し
    考えられる要因を書き出す
    ※このとき付箋を用いると以降の作業がしやすくなる
    STEP2
    カテゴリー分け
    要因を洗い出したら、各要因をカテゴリー別に分類
    STEP3
    特性要因図作成
    特性とカテゴリー分けした要因を並べ各要因に対して
    「なぜなぜ分析」を繰り返し根本的な要因を洗い出す
    注意点

    作ること自体が目的ではない

    他責にしない

    一人で悩まない

    ※画像をクリックすると拡大して表示されます。

  • 事例で学ぶ。特性要因図

    次のような転倒事例が発生したと想定して、特性要因図を作ってみましょう。
    同じ患者でも発生状況が異なれば、別の要因が見えてきます。

    事例1

    事故発生状況
    夜間、一人でトイレに行こうと
    センサーマットをよけて足をつき転倒、骨折

    特性:夜間にトイレに行こうとし転倒して骨折

    場 面
    【場所】 内科病棟 病床数:40床、稼働率90%
    【時間】 深夜2時過ぎ(申し送り終了後)
    【患者】 81歳男性。プライドが高くナースコールを押そうとしない、医療従事者をあまり信用していない、認知症初期だが日常生活に問題はない。糖尿病の悪化で入院2日目、筋力低下による若干のふらつきがある
    【状況】 ナースステーションに看護師2名。アセスメントによりセンサーマットを利用。患者は夜間一人でトイレに行こうとセンサーマットをよけようとして転倒、骨折

    ※事例1、2の参考例のうち異なる要因部分を青字にしました。
    ※画像をクリックすると拡大して表示されます。

    RoomT2 設立代表
    パラマウントベッド株式会社
    主席研究員 杉山良子より

    右端に特性(結果)、それと関係する要因群を魚の骨のように大骨から小骨へと順次系統的に矢印でつなげて整理した図です。現状把握がある程度進んだ段階で特性とランダムに抽出した要因の関係を整理します。挙がった要因は仮説ですが、実はこんなに多くの要因があり、それらが重なって転倒の発生につながったことに気づいてほしいと思います。

    株式会社オーセンティックス
    代表取締役 高田誠 氏より

    モレが無いように可能性のある「なぜ」を思いつけるだけ書き出すと、このケースではこれだけの項目が出てきます。
    全てにアクションをとろうとするのではなく、「ここにアクションをとれば同じ問題が繰り返されないはずだ」という項目を2,3見つけることがこの分析を活かすポイントです。

    事例2

    事故発生状況
    日中、自力でトイレに行こうとして
    ベッドから転倒、骨折(センサー反応せず)

    特性:看護師が駆けつけられず転倒して骨折

    場 面
    【場所】 事例1と同じ病院
    【時間】 午後3時頃
    【患者】 事例1と同じ男性。糖尿病の悪化で再入院
    【状況】 センサー内蔵型ベッドを使用していたが、看護師が使い方に慣れておらず、頻繁にセンサーが鳴ってしまった。その度に看護師が駆けつけるのを患者が嫌がったため、看護師がセンサーをOFFにしてしまった。そのため患者がトイレへ行こうとベッドから離れてもセンサーが反応せず、看護師が駆けつけられなかった

    ※事例1、2の参考例のうち異なる要因部分を青字にしました。
    ※画像をクリックすると拡大して表示されます。

    RoomT2 設立代表
    パラマウントベッド株式会社
    主席研究員 杉山良子より

    事例1は、患者の持っている要因(糖尿病の悪化と患者の夜間排泄行動)に焦点があたっていました。一方、事例2は、同じ患者の転倒について医療従事者側の要因に焦点をあてて分析しています。結果、センサーを利用してのケア方法に問題がありました。ケア方法というソフトとセンサーというハードとのミスマッチの問題が浮上してきました。

    株式会社オーセンティックス
    代表取締役 高田誠 氏より

    「センサーをOFFにしてしまった」に「なぜ」がいくつか出ていますが、この部分を拡大して、なぜをもう一段階深掘りしたり、項目を整理しなおしたりすると具体的で効果的なアクションを決められるでしょう。特に「センサーが鳴りすぎた」の理由を明確にし、解決するのが重要そうです。

  • 分析のポイント

    「具体的な対策を導き出す」という分析の目的を意識することが大切です。

    問題を解決するために要因を洗い出し、効果的な対策を導き出すことが作成の目的。図を完成させて終わりにせず、完成した図を用いて次のステップ(具体的な対策の検討)へと駒を進める。

    「もっと自分が気をつければよかった」、「備品に問題があった」などひとつのカテゴリーの要因に絞り込みすぎない。分析に誤りがあると問題解決のアクションにつながらない。

    図を一度に完成させるのではなく、主要因の深掘りを何度か繰り返しながら、枝葉を広げていく。

    一人で悩まず、職場全員で話し合って図を作成し、共通のツールとして活用する。

  • 記入シートに書きこんでみましょう
    *記入シート(PDF)はこちらからダウンロードができます

    ダウンロード

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    上記を参考に、具体的な対策を導き出したい問題についてシートに書き出してみましょう。
    ホワイトボードや模造紙などを用いてグループで実施すると、よりよい成果が期待できます。

  • アドバイザー

    RoomT2 設立代表
    パラマウントベッド株式会社
    主席研究員 杉山良子

    株式会社オーセンティックス
    代表取締役 高田誠 氏