センサー選定/センサー設定
フロー作成の取り組み事例

地方独立行政法人 神奈川県立病院機構
神奈川県立がんセンター

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地方独立行政法人 神奈川県立病院機構
神奈川県立がんセンター

  • 所在地/神奈川県横浜市旭区中尾二丁目3番2号
  • 手術件数/3,658件(令和3年度)
  • 病棟/一般病棟9・HCU 看護体制/7:1
  • 拠点病院としての活動/都道府県がん診療連携拠点病院・
    がんゲノム医療拠点病院
  • その他特徴/先進医療としての重粒子線治療・臨床研究所・
    地域がん登録(神奈川県悪性新生物登録事業)・
    新規治療開発支援センター(治験・臨床研究ほか)
背景

転倒転落リスクが高い患者が増加し、転倒転落対策の重要度が上昇

    2017年から2019年に掛けて、転倒転落のインシデント/アクシデント件数が増加傾向にあった。さらに2020年は、コロナ禍の影響で病床稼働率が減少したこともあり転倒転落発生件数は減少したものの、レベルの高い事案の発生は変わらない状況があった。危機感に加え、手詰まり感さえもある状況だった。

  • がんセンターならではの患者特性があり、抗がん剤治療や手術など、ある程度元気な方が入院するため「自分は元気だ、転倒はしない、大丈夫だ」と思っている方が比較的多い状況だった。
現状把握

事象を一件一件分析し事実把握する

転倒転落の問題を解決するため現状把握を行った。医療安全推進室監修のもと、転倒転落防止に取り組む多職種チーム(以下、TMT-20〈転倒マネジメントチーム20〉と略す)を結成し、RoomT2メンバーも一緒に、過去のインシデント/アクシデントレポートを一件一件読み解き直して分析を行った。

  • 定性的な把握ではなく、どのような転倒転落が、どのような原因で、いつ、どこで、どのくらい発生しているのかなど、定量的に把握することに努めた。
  • いわゆる転倒転落発生率がどのように推移しているのか、という表面的な事実だけではなく、発生場所、センサーの使用有無、センサーを使用していた場合は何のセンサーを使用していたのか、転倒転落に至った行動目的や起因動作は何なのか、リスクアセスメント結果とインシデント/アクシデントレベルとの相関関係など、様々な本質的な事実を把握した。
  • 把握したポイントを患者の入院から転倒転落事故発生、振り返りまでの時系列で整理すると以下の通りであった。数字できちんと現状の把握ができたことによって、問題の所在が明確になった。
  • 【環境整備】

    ⚪︎ベッド床高の設定、L字柵の使用、衝撃緩衝マットの使用など、センサー以外での環境面の対応が十分にできていないことによる転倒転落がX件あった。

    【アセスメント/対策立案】

    ⚪︎「リスクレベルⅢ」や「せん妄あり」と評価されていても、センサーが選定されておらず、結果として転倒転落に至った事例がX件あった。

    ⚪︎「リスクレベルⅡ」と評価されている患者での転倒転落が最も多く、X件あった。

    ⚪︎パフォーマンスステイタスが良い患者が多く、センサーの使用方法、睡眠薬に関連した課題があった。

    【実行】

    ⚪︎鎮静剤を使用した検査後の転倒転落がX件発生していた。

    ⚪︎何らかのセンサーによる通知を受けて駆け付けたものの、既にベッドサイドで転倒していた事例が多くX件であった。

    ⚪︎センサーOFF直後/OFF時(センサーが通知されていない状態)での転倒転落がX件発生していた。

    【振り返り】

    ⚪︎損傷レベル3a/3b以上のアクシデントが発生した際の振り返りなど、詳細分析が十分にできていなかった。

ありたい状態(目標)

「本来あるべき姿」を考える

現状把握によって、自分たちの状態を客観的に理解したうえで、ありたい状態(目標)について検討した。【成果を上げるための計画立案プロセス】(問題解決へのアプローチ参照)に則って病院としてのあるべき姿を考え、具体的な目標を以下のように定めた。

  • ① 転倒転落による有害事象発生件数がX件/月に抑えられている。
  • ② ①達成のために、病棟で所有している対策物品が有効に活用できている。
  • ③ ①達成のために、適切な患者に、適切な対策手段(センサー選定/センサー設定)がとられている。
  • ④ ②や③が、看護業務に影響(負担)を与えずに実現できている。
原因・理由

なぜなぜ分析で真の理由を探す

「ありたい状態(目標)」に対して、現状として、なぜその状態に至れていないのか、原因(=課題)の洗い出しを行った。

  • なぜ?なぜ?なぜ?と“なぜ”を繰り返していき、真の理由に行きつくように深掘りしていくことと、意識の問題を原因にしてしまうと、なかなか根本解決に至れないので、「注意を怠ってしまったため」などの気持ち(意識・マインド)の部分に落ちてしまわないように、システムやハードの方に目を向けていくことを意識して考えた。
  • 現在起きていることを、事象ごとにその原因を分析した。
  • (分析の一例)
    現在の状態:なんらかのセンサーによる通知を受けて駆け付けたものの、既にベッドサイドで転倒していた事例が多くX件であった。

    必要な時に気づけていない

    間に合っていない

    ・なぜなら?

    センサーが的確に活用できていない(センサーのON/OFF、設定、誰に使うか等)

    ・なぜなら?

    担当者がセンサーを適切に設定できていない

    ・なぜなら?

    担当者がセンサーの使い方を理解していない

    どんな患者にリスクがあるのかが組織全体で不明確


  • 分析を重ねた結果、「ありたい状態(目標)」に至れていない原因(=課題)として整理された事項は以下であった。

⚪︎センサーなどの対策物品選定/使用要否に関する院内ルール(標準)が無い。

⚪︎センサーの使用方法が周知/熟知されていない。

⚪︎センサーOFF時の運用、センサー通知の際の対応方法など、センサー使用プロセスにおけるルール(標準)が無い。

どのようにして達成するか(戦略)/実行

原因、他病院の事例、メーカー目線から考える

  • 「戦略立案」にあたっては、先の「原因(=ありたい状態に至れていない理由)」を裏返して考え、「できていない」ことの原因を「できる」ようにしていったり、RoomT2が関わった過去事例など他病院の事例や、「メーカー的目線での考え方」をベースに考えた。
  • 以下の戦略施策を実行することにした。
  • センサーなどの対策物品選定/センサー設定フローを作成し、センサー必要要否等の判断に際して、看護師が迷ったり、バラツキが生じないように標準を定める。
  • 各種センサーの検知の仕方の違い・使い方説明など、製品に関する教育を改めて行い、適切に各種センサーを扱えるようにする。
  • モデル病棟(モデル看護師)を選び、センサーなどの対策物品選定/センサー設定フローに基づいた運用を行い、そのアウトプットやアウトカムを確認する。そのうえで、実状に即していない点は修正・改善を行い、運用の定着(標準化)を目指していく。
成果物(アウトプット)

「センサー選定/センサー設定フロー」を作成

戦略を実行し、アウトプットとして、「センサー選定/センサー設定フロー(図1)」、フローを用いた再判定のタイミングなどを記した「センサー運用フロー(図2)」を作成した。

スマートベッドシステムの概要

図1:センサー選定/センサー設定フロー

臨床センサー試行・運用基準

図2:センサー運用フロー

成果(アウトカム)

フローの運用と使い方の再教育で成果につなげる

モデル病棟でのフローの運用や、各種センサーの検知の仕方の違い/使い方説明など、製品に関する教育を改めて行い、以下のような成果を得た。

  • 転倒転落発生件数が減少した(8件→5件):2ヶ月間のトライアル期間における1年前同時期比、一病棟のみでのトライアル結果
  • センサーの使用/解除について看護師のポジティブな意識変化があった。
    「患者の状態に合ったセンサー(機能)の選択」「センサーを必要とする患者への速やかな使用」「患者の状態変化に合わせたタイムリーなセンサー(機能)変更」「センサーの積極的使用」について、自信が持てるようになった。
  • センサーが必要なくなった時点での使用解除について自信が持てるようになった。
    トライアル前は『速やかに解除できていない』と感じているスタッフが多かったが、トライアル後は『速やかに解除ができるようになった』と感じるスタッフが増えた(16.4ポイント改善)。
  • 57.2%のスタッフが「フローは、センサー(機能)選定をするうえで役立つ」と回答した。
  • フロー導入の効果が明確になった。
    「センサー(機能)の選択」「ディスカッションや情報共有での活用」「アセスメント能力向上」などがあげられた。特に「事故の振り返り時の活用」において有効だったとの意見が多く得られた(28.6%)。
今後の課題など
  • 転倒転落発生件数が減少した件については、病棟への働きかけの効果は一定程度あったと評価するが、減少した理由が「フローの使用による効果」だったかどうかという点については、結論は出せなかった。
  • 転倒転落アセスメントスコアでハイリスクと評価された患者においても、フロー上では「ナースコールが押せる」という理由で、半数がセンサー不要判定になったが、院内の過去の転倒転落事例から考えると妥当ではないと考えられたため、今後の修正が必要と考えている。
  • トライアル中、病棟の負担が量的にも心理的にも増加したため、今後は運用手順の改善が必要である。例えば、決まった時に再判定をするのではなく、気が付いた時に、受け持ち以外の看護師でも再判定を行えるよう改善していきたい。
  • センサー選定フローの活用推進を継続し、いずれはベッドサイドを訪問するすべての医療従事者が、患者の変化を感じたら、情報を発信し協議できるチームとなるように取り組みたい。

RoomT2より

この取り組みの後も、TMT-20の活動を継続し、フローの改良版も作られています。また、院内マニュアルに盛り込み、どの病棟でも活用できる仕組みを整えるなど、取り組みが継続し、発展されていることは、とても素晴らしいことだと思います。