問題解決へのアプローチ

RoomT2 の過去のセミナーの中から大変好評いただきました
「マネジメント講座」の主な内容を3つに分けてご紹介します。

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  • 問題解決へのアプローチ

    3「セミナー参加病院の目標・戦略とアドバイス」

    他院の例に対して講師の高田 誠氏、RoomT2 代表の杉山 良子からのアドバイスを
    ご紹介します。他院の例を参考に、自院での目標・戦略づくりにお役立てください。

  • RoomT2 のセミナーでは、現場の皆さま方のグループワークを重要視しています。高田氏から目標の立て方、戦略の立て方についてご講義いただき、その後、グループワークを実施してきました。グループワーク終了後は、各グループからの発表の時間を設け、転倒転落問題に関して意見交換をしていただくとともに、病院毎の目標や戦略(改善方法)についての共有化を図ってきました。

    グループワークでは、これまで以下の 4 つをテーマに掲げました。
    ① 転倒転落事故を減らす取り組み
    ② 抑制を減らす取り組み
    ③ 重傷事故を減らす取り組み
    ④ 家族とともに行う取り組み

    今回ご紹介する事例は、この 4 テーマについての意見交換後に、自分の病院での取り組みについて書き出していただいたものです。他病院では、どのようにして取り組もうとしているのか、参考にしていただきたいと思います。

  • 転倒転落事故を減らす取り組み

    [A病院]

    目標

    転倒転落を年45件⇒35件以下にする(毎月1件ずつ減らす)

    戦略(改善方法)

    ①データ収集整理
    ②定期的ラウンド
    ③安全文化を浸透させる(KYTトレーニング、勉強会の定期開催)
    ④離床センサー使用にむけてのアセスメント
    ⑤評価基準の明確化

    RoomT2からのアドバイス

    目標に掲げた「45件から35件にするために減らす10件」はどのようなものなのかを明確にして、そのための施策に集中すると成果がでます。
    ここで減らす件数の内容は、転倒転落のアクシデントについてですね。月にして考えると、毎月約1件(年間10件)を病院全体で減らしたいということになります。全体とすると、このままでは他病棟任せという意味にもなりかねませんので、付け加えた形で「自分の○○病棟ではこうする」という的を絞った目標設定にするとよいのではないでしょうか。

    戦略は全体を考えた項目があがっていますので、安全管理者の目標という感じがします。臨床現場が取り組める戦略を明示してあげるとよいのではないでしょうか。

    データ収集の際には、アクシデント件数を数えるだけでなく、アクシデントの発生事由まで追求できるように取り組むと、より解決の糸口が見えてきます。

    また、④離床センサー使用にむけてのアセスメントにおいては、アセスメントに患者の属性等を簡単で構いませんので記録することをお勧めします。患者の属性等があれば、アセスメントスコア値が同じであっても、患者の個別性とそれに伴う気づきが得られやすくなります。

    [B病院]

    目標

    センサーコールをできるだけ使用せず転倒転落を減らす

    戦略(改善方法)

    ①センサーコールを正しく使っているかを把握する(特殊コール委員会に把握・分析をさせる)
    ②勉強会を開催する

    RoomT2からのアドバイス

    センサーコールには多数の種類があります。「コールをできるだけ使用しない」という目標の意図には、何があるのでしょうか。センサーが及ぼす患者への影響に着目しているのか、鳴りすぎることでの医療従事者への負担を問題としているのか、目標の背景について考えることが必要です。

    確かに、センサーコールの使われ方をしっかりと把握することも重要です。特殊コール委員会(そういうチームがあるんですね)というチームにその役目を担ってもらうことや、転倒転落の実態の分析をしてもらうのもよいと思います。

    センサーコールは患者の転倒転落につながる危険行動を事前に察知して、医療従事者に患者の動きを伝えるツールであることを念頭に置くことが大切です。そのうえで上手に使っていくための勉強会を通して、スタッフへの周知が図られていくものと思います。

    [C病院]

    目標

    病室内で患者が転ばない

    戦略(改善方法)

    ①なぜ、病室内で転倒転落事故が起こる率が高いのか、詳しく調べる
    ②転倒転落事故に遭遇しない看護師の行動分析をする
    ③②をアセスメントスコアシートにする

    RoomT2からのアドバイス

    一件一件の状況を把握し、原因を見つけ、その原因を取り除けば、同じ問題が起こらないようにすることが可能です。

    戦略①で、病室内での患者の転倒転落要因を詳しく調査することは良いですね。その際、調査項目をどう設定するのか検討が必要です。

    戦略②には、看護師のケアする側の行動分析とありますが、患者の行動分析については、どのように考えられているのでしょうか。多変量解析を用いて患者の転倒アセスメントスコアシートを作成することもできます。とても手間がかかりますが、病院オリジナルのアセスメントスコアシートを作ることも可能です。

    抑制を減らす取り組み

    [D病院]

    目標

    転倒転落防止のための身体抑制の比率を半分に減少させる

    戦略(改善方法)

    ①転倒転落防止の抑制状況の調査(前年度との比較)
    ②安全用具の選択及び運用方法の統一

    RoomT2からのアドバイス

    身体抑制の減少にむけては、看護師の抑制への認識の変容が求められます。患者は、転倒することで不利益になることもあります。そのため、「転倒しないためには患者が動かないようにするしかない。それが患者のためになるし、看護師の人手もない」というような職場風土や、家族から「なぜ転倒させたのかと責められる」など家族との問題が根強くあるからです。

    抑制は難しい問題の一つですが、これを目標にして取り組まれることを歓迎したいと思います。抑制については、倫理的問題から逃れることはできません。転倒転落防止の対策として抑制をするというのは、人工呼吸器を装着している場合や、術後や検査後の抑制とは大きく意味が違いますので、「抑制がなぜ必要か」、抑制の基準といった看護ケアの根底の問題として整理し、論議していくことも必要でしょう。

    認知症の患者が入院すると聞いたら、患者も見ずに、安全用具が用意されていたという話も聞きます。このような機械的な看護にならないケアをめざすためには、システムが必要となります。例えば、安全用具使用においてのチェックリストなどです。同時に看護師の患者アセスメント能力を引き上げていくことも必要です。抑制をしなくてもよい環境づくりをすることに、力を向けてみて下さい。

    貴院は“半減”を定量的な目標にしていますが、いろいろ調査しないとわからないことに対して、まず“半減”をめざすというのは、よく行われがちな目標の設定です。また、戦略は2つだけでなく、もっと多様に設けると良いと思います。

    [E病院]

    目標

    転倒転落防止のための身体抑制の比率を3%減少させる

    戦略(改善方法)

    ①当院の転倒転落目的の拘束率を出す(平成29年1月~3月)
    ②転倒転落防止対策に使用される用具の種類と個数調査(平成29年1月)
    ③転倒転落の安全用具使用状況確認(平成29年1月~3月)
    ④安全用具過不足調査(平成29年1月~3月)
    ⑤センサー付ベッド導入へと導く

    RoomT2からのアドバイス

    細かい調査もしないまま漠然と「3%減少」と掲げる目標設定は、あまり適切とは言えません。ここで3%とした根拠には何があるのでしょうか。「10%起こっているうちの3%にあたる○○を減らす」というように、何を3%を減らすのかを明確にしましょう。

    このような場合は、問題を類型化し、重要なものから一つずつ確実に解決することを繰り返していくと、アプローチが漠然としたものにならず確実に成果が積みあがっていきます。

    戦略が複数あがっているのは、よいですね。ただ、①~④はデータ収集として具体的でよいのですが、その結果から⑤の「センサー付ベッド導入」へと導いていくのだとすれば、センサー付ベッドの有効性を引き出すための工夫や有効性の調査のために、もう一段取り組みを積み上げていく必要があると思います。それにより病院トップの理解、現場からの協力が得られるはずです。④と⑤の間に、戦略をもう1ステップ設けることをお勧めします。

    さらに付け加えるならば、「3%減少」という抑え込む抑制ではなく、抑制の減少に向けて頑張っているようなよいところ、あるいは不足しているところを改善していくという方向の目標設定と戦略について考えてみてはいかがでしょうか。

    重傷事故を減らす取り組み

    [F病院]

    目標

    ①重傷事故の転倒転落をなくす
    ②患者が安全に行動できるための環境とケアを考えられる看護師になれる

    戦略(改善方法)

    ①アセスメントスコアシート、アセスメント、看護計画、転倒転落記録が、情報共有できるように、一目でわかるようなシステムを作る
    ②必要な情報収集ができる、アセスメント能力が向上できる教育

    RoomT2からのアドバイス

    目標に対しての戦略に不足があるように思います。重傷事故というのは有害事象であるアクシデントという意味になりますが、実態はどうでしょうか。その有害事象にも、頭部外傷による脳内出血とか大腿骨骨折、その他の骨折、転倒が介在したスキンテアなど多岐にわたっていますので、実態の把握から始める必要があります。

    そのうえで重傷事故にしないようにするには、まず環境の整備ということになります。では、どこから手をつけていくのかということですが、これは重傷事故になった事例からの判断になるでしょう。まずは、これまでに発生した転倒アクシデントの場所の環境改善が第一。それは、再発防止にとって重要だからです。

    看護師の教育としての能力アップももちろん重要ですが、教育の効果はすぐにはでてきませんし、書かれている戦略でのシステムづくりには相当のコストや労力がかかると思われます。見えている危険な環境からの改善をすすめていきましょう。

    なお、能力アップには、多くの事例を知ることも有効です。事例を知ることで、リスクを考える力が付きます。内外の事例を知る活動をすると一人ひとりの能力が向上するでしょう。

    [G病院]

    目標

    重傷事故の転倒転落をなくす

    戦略(改善方法)

    【ヒト】
    アセスメントスコアシートのチェック項目の目的が理解できるように教育する
    【モノ】
    転倒転落アセスメントスコアシートから看護計画、転倒転落記録まで一連の流れが分る記録方法(テンプレート作成)
    【しくみ】
    テンプレートを運用する

    RoomT2からのアドバイス

    戦略が、アセスメントシートへの作業が中心になってしまっているのではないでしょうか。重傷事故の転倒転落をなくすという目標を軸にして考えてみましょう。

    テンプレートは、モノというよりも情報のためのツールです。モノはハードですので、転倒転落にとっては環境づくりのためのあらゆる製品ということになります。

    「アセスメントスコアシートの活用によって患者のリスクを把握し、そうしたリスクを管理して、転倒転落による重傷事故を防いでいけるような看護ケアプロセスを作って運用したい」という考えがあることは理解できます。その思いを具体化して、戦略として書き出してみてください。

    戦略は、どのような立場に立って考えるのかがポイントです。その立場を明確にすると、戦略が深まることでしょう。

    家族とともに行う取り組み

    [H病院]

    目標

    患者、家族とともに転倒転落防止の仕組みができている状態

    戦略(改善方法)

    【ヒト】
    転倒転落防止研修
    【モノ】
    転倒転落防止対策用品の整備
    【しくみ】
    ①転倒転落防止ワーキングとの連携
    ②転倒転落防止対策フローの作成
    ③患者、家族と医療従事者で話し合い、双方の意向を理解し共有化する
    ④転倒転落アセスメント及び計画の見直し
    ⑤排尿日誌の検討
    ⑥インシデント分析

    RoomT2からのアドバイス

    この目標のキーワードは患者・家族の参加ですね。患者・家族と医療従事者が共有すべきことは何だと考えていますか。それが明確になれば、おのずと戦略としての取り組みもはっきりとしてくるのではないでしょうか。

    この場合、できないことを思い浮かべるのではなく、どんな小さなことでも、できそうなことを考えてほしいと思います。そして、戦略の主語をはっきりさせておいてください。

    戦略③にある「患者、家族と医療従事者で話し合い、双方の意向を理解し共有化する」これこそが、私たちRoomT2のテーマであるように思います。

    転倒転落防止の取り組みを患者、家族とともに行うということは看護そのものです。「非常に難しいこと」を「どのようにやっていくか」が、とても大切です。

  • いかがでしたでしょうか。病院ごとに何を目標にするのか、目標達成のための戦略はどのように立てるのか、様々なケースがありました。ご自身の病院ではどのような目標を掲げ、どのような戦略を立てるのか、「目標の立て方」「戦略の立て方」のページを参考に、考えてみてください。

  • アドバイザー

    株式会社オーセンティックス
    代表取締役 高田誠 氏

    RoomT2 設立代表
    パラマウントベッド株式会社
    主席研究員 杉山良子